冬になると山々は真っ白に雪化粧し、青い空の下は白一色の幽玄の世界になる。小鳥の声を聴きながら樹氷の下を歩けば、街での生活を全て忘れる。夏は藪で埋まって通れない所も、この時期なら快適に歩ける。恐る恐るでも良いから、雪山入門の仲間入りをしよう。
雪山と言えば直ぐ遭難と短絡するのは早計過ぎる。正しい知識と技術を身に付けて臨めば雪山は安全だ。初心者のうちは安心なル−トを選び、天候が読めて中止が決断できる冷静沈着な経験者と一緒に行動すれば良い。
雪山にはいろいろあって、スノ−トレッキングと本格的な雪山登山では取り組み方が大きく異なる。この二つは装備とコ−スで見分けられる。装備でいえば軽アイゼンとストックで登れる山はスノートレッキング、12本爪アイゼンとピッケルがないと登れない山は雪山登山。 コースで分類すると滑落してもすぐ止まって大きな事故にならないコ−スはスノートレッキング、転倒滑落が骨折や行方不明のような致命的事故につながるコ−スは雪山登山、となる。
また、近年ランニングに適したスノーシューが開発され、スノーシューレースという新しいスポーツが生み出されている。
1、スノ−トレッキング
雪山初心者はスノ−トレッキングから始めて白く美しい大自然と触れ合おう。膝下くらいまでもぐる新雪の中に踏み込んで目標物を定め、それに向かって一直線に進む。真白な雪原に自分でル−ト取りして歩くと、とても爽快な気分になれる。これもラッセルだが初歩のラッセルだから特別な技術はいらない。一番目の人は足を交互に出して普通に歩いて行く。二番目の人は、前の人が作った穴の後ろの雪を崩して埋めながら歩く。後続の人も同様にすると、数人の後ろには1本のレ−ルのような道が出来、それから後の人は非常に歩き易い。ラッセルの先頭から3人目までは重労働なので、一人何歩と決めてどんどん交代していくと楽しい。
ラッセルの時ワカンかスノ−シュ−を履くと足の沈み方が少ないので楽だ。機能的には
ワカン・スノーシューどちらでも良いが、ネーミングなどの“おしゃれ感覚”も大切な要素だ。スノーシューを履いて自然観察に出かけ、白い原野の素晴らしさを体験しよう。
2、雪山登山
長年雪山登山をやってワカンに習熟した人が同じ感覚でスノーシューを取り扱うと失敗する。足を乗せる位置一つとってもワカンと異なる“ツボ”がある。全く新しい別の道具という認識を持って、正しい技術を習得しよう。
ワカンは“シンプルイズベスト”という日本的発想で進化したカンジキ用途一筋の専用ツ−ルなのに対し、スノ−シュ−はカンジキ用途だけでは勿体ないという西洋的発想から多目的用途を付け加えて改良を重ねた道具だ。ある時はカンジキ、ある時はアイゼン、ある時はスキ−、の役割を果たすことが出来るのだが、状況に応じて使い分ける技術がないと、その人にとっては無用の長物と化す。凍結した所やワカンでは歯がたたない極端な急斜面を素速く、力強く登り下りするにはスノ−シュ−が優れているが、指導者について扱い方の技術を事前に反復練習しておかなければならない。一方“新雪を踏む”というカンジキ用途だけならワカンで良い。ワカンは事前練習なしでいきなり履いても支障なく使える。
硬雪・凍結でスノーシューがアイゼン代わりになると書いたが、道具には限界というものがあり、性能面では12本爪アイゼンに劣るから注意しよう。滑落の恐れがある所をスノーシューで挑戦するのは無謀だ。だが、スキー向きの急斜面を素早く駆け下るにはアイゼンよりスノーシューが優れている。アイゼンで急ぐと木の根や石に鋭い爪を引掛けて転倒し、足首や膝を痛める。
スノーシューはカンジキとしてはワカンに負けるし、アイゼンとしては12本爪アイゼンに敵わず、スキーとしては本物に及びも付かない。それぞれで比較したら専用ツールに劣るが、状況が変化しても一組の道具だけで対応できるという利点がある。
ワカンもアイゼンも背負わず、スノーシューだけ持って行けば事足りるコースなら軽量化に繋がるし、一度履いたら脱がないところが良い。ワカン・アイゼン・スキー という専用ツールは必要な場面で使うだけなので、履いたり脱いだり取り替えたりと面倒だし、大勢だと時間ロスが馬鹿にならない。
金峰山へ雪の少ない山梨県側から登山すると、つぼ足では歩きにくいがワカンを着けると邪魔で、アイゼンは時々しか使わない。人それぞれで、着けたり脱いだり背負ったりということになる。森林限界を超えると雪が風で飛ばされて岩肌が見え隠れしているからアイゼンワークが難しいし、場所によっては木の根が網の目のようになって雪の下に隠れていて神経を使う。こんな登山にはスノーシューが適している。スノーシューなら瑞がき山荘登山口から履きっぱなしで頂上までフル活用できる。下りも履いたまま快適に飛ばして,短時間で麓へ到着する。
3、スノーシューレース
人気が急上昇している“トレイルラン”の雪上版と考えれば分かり易い。スノーシューを履いて5Kコース・10Kコース・15Kコースを走り抜けるレースで、日本スノーシューイング連盟では妙高高原と水上高原で毎年2月・3月に開催している。将来はグランプリレースとして回数を増やす計画があり,国際アマチュアスノーシュー競技連盟に加入する話やワールドカップに参加する話がでている。
アメリカでは盛んに行われ、各地の大会には幅広い年齢層の人が参加する。
水上宏一郎
日本スノーシューイング連盟専務理事/技術指導部長
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